結論から言います。北海道のヒグマは、今、確実に増えています。
北海道が公表しているヒグマ管理計画によると、道内のヒグマの推定生息数はおよそ1万2000頭とされています。しかも、この数は年々増加傾向にあります。私はこの記事を書くにあたって北海道庁の資料や環境省、内閣官房の統計を確認しましたが、どのデータを見ても「増加」という言葉が繰り返し出てきます。
この記事では、なぜヒグマが増えているのか、どのエリアで特に注意が必要なのか、ツキノワグマとの違い、季節ごとの活動パターン、そして私たちが今すぐできる対策は何かを、専門的な内容も踏まえながら、できるだけ分かりやすい言葉でお伝えします。
北海道にお住まいの方はもちろん、これから移住や旅行を考えている方にも役立つ内容になっています。最後まで読んでいただければ、漠然とした不安が、具体的な行動に変わるはずです。私自身、この記事を書くために複数の一次資料に目を通しました。噂やイメージだけでなく、データに基づいた内容をお届けできればと思っています。
この記事の要約
北海道のヒグマの推定個体数は約1万2000頭で、増加傾向にあります。自然増加率はおよそ9.2パーセントと推定されています。増加の背景には、捕獲を担うハンターの減少と高齢化、そして人を恐れないヒグマの出現があります。札幌や旭川といった都市部の郊外でも出没が増えており、もはや「山の中だけの問題」ではありません。
北海道庁は2025年から2034年までの10年間で、総捕獲目標をおよそ1万2540頭に設定し、個体数の増加に歯止めをかけようとしています。一方で、2025年度は餌となるドングリやヤマブドウが豊作だったため、捕獲数自体は一時的に減少しました。私たちにできる対策は、正しい知識を持つこと、出没情報をこまめに確認すること、装備を整えること、そして万が一の遭遇に備えることです。
北海道のヒグマは本当に増えているのか
まず、多くの方が気になっているであろう疑問から答えます。「北海道のヒグマは本当に増えているのか」。答えは、はい、増えています。
北海道庁が策定した「北海道ヒグマ管理計画」の資料では、道内のヒグマの推定生息数は約1万2000頭とされています。これは平成26年、つまり2014年末の個体数を100とした指数で見ても、明らかに右肩上がりの推移を示しています。個体数指数は年を追うごとに上昇しており、単なる体感ではなく、データとして裏付けられた増加だということが分かります。
さらに詳しく見ると、北海道のヒグマの自然増加率は9.2パーセントと設定されています。これは、何も対策をしなければ、毎年これだけの割合で頭数が増え続けるという計算です。本州のツキノワグマの自然増加率が14.5パーセントとされていることと比べると、ヒグマの増加ペースはやや緩やかに見えるかもしれません。しかし、絶対数として1万頭を超える大型肉食獣が道内に生息しているという事実は、決して軽く見ていい話ではありません。
私が調べた範囲では、知床半島だけでもおよそ500頭のヒグマが生息していると推定されています。これは日本国内でも最も生息密度が高いエリアの一つです。世界自然遺産として知られる知床ですが、その豊かな自然は同時にヒグマにとっても理想的な生息環境だということです。
大雪山も日本最大級の国立公園であり、トレイル全域にヒグマが生息しています。日高山脈でも、大きな個体群が周辺の低地にまで行動範囲を広げているという報告があります。つまり、北海道の山という山、ほぼすべてがヒグマの生息域だと考えて間違いありません。
なぜヒグマが増えているのか、その理由
ヒグマが増えている理由は、一つではありません。私が資料を読み込んで感じたのは、複数の要因が絡み合っているということです。ひとつずつ整理していきます。
まず一つ目は、捕獲を担う人材の減少と高齢化です。札幌市の資料でも、ヒグマに対応できる熟練したハンターの減少が明確な課題として挙げられています。かつて行われていた「春グマ駆除」が廃止されて以降、保護に重点を置いた施策が進められてきました。その結果、ヒグマに対する捕獲圧が緩んでしまったのです。捕獲圧が弱まるということは、単純にヒグマが命を落とす機会が減るということです。当然、個体数は増える方向に働きます。
二つ目は、人を恐れないヒグマの出現です。捕獲圧が弱まったことで、人間に対する警戒心が薄いヒグマが増えてきています。本来、ヒグマは人間を避けて行動する動物です。しかし、警戒心の薄い個体が増えることで、結果的に市街地への出没が増えるという悪循環が生まれています。親から子へ、警戒心の薄さが受け継がれていくという指摘もあり、これは長期的に見て深刻な問題だと私は感じています。
三つ目は、自然増加そのものです。先ほどお伝えした通り、ヒグマの自然増加率は9.2パーセントとされています。捕獲によってこの増加を抑えられなければ、個体数は着実に増え続けます。北海道庁が捕獲目標を設定しているのも、この自然増加分を相殺するためです。
四つ目は、餌となる木の実の豊凶です。これは少し意外に思われるかもしれません。実は、ドングリやヤマブドウなどの餌が豊作の年は、ヒグマが山から出てこなくなるため、人里での目撃件数自体は減る傾向があります。逆に、餌が不作の年は、食べ物を求めて人里近くまで下りてくる個体が増えます。
2025年度は餌が豊作だったため、捕獲頭数が2023年度の過去最多だった1804頭の半分以下、約700頭にまで減少しました。ただしこれは個体数そのものが減ったわけではなく、あくまで一時的な出没の落ち着きだと私は理解しています。翌年に餌が不作になれば、再び出没件数が跳ね上がる可能性は十分にあります。
五つ目として、土地利用の変化も見逃せません。人口減少に伴い、耕作放棄地や手入れされない山林が増えています。これにより、人里と山の境界があいまいになり、ヒグマが人里近くまで移動しやすい環境が広がっていると考えられています。かつては人の生活圏と野生動物の生息域の間に、田畑や果樹園といった緩衝地帯がありました。その緩衝地帯が失われつつあることも、遠因の一つだと私は考えています。
市街地への出没が増えている実態
私がこの記事を書いていて特に驚いたのは、ヒグマの出没がもはや山間部だけの話ではないということです。
札幌市南区や西区といった郊外エリアでは、河川沿いにヒグマが市街地へ進入する事例が報告されています。旭川郊外や神居古潭のような、山と市街地の境界にあたる地域でも同様です。かつては「山に行かなければ会わない」というイメージがあったヒグマですが、今はそうとも言い切れません。
全国の熊の出没件数を見ると、2026年時点で年間15万件を超える出没が記録されており、そのうち北海道が全体の約1割、1万5000件以上を占めています。全国的に見ても、北海道はヒグマの出没件数がとりわけ多い地域だということが分かります。直近30日間だけでも数百件単位の出没情報が寄せられており、決して珍しい出来事ではなくなっています。
道東エリア、具体的には羅臼町や標津町、別海町といった地域では、サケ漁の時期にヒグマの活動が活発になる傾向があります。サケという豊富な栄養源が沿岸部に集まる時期は、ヒグマにとっても絶好の餌場になるからです。観光や漁業でこれらの地域を訪れる方は、時期に応じた注意が欠かせません。
日高山脈も、歴史的にヒグマの活動が集中してきたエリアとして知られています。かつて発生した福岡大学ワンダーフォーゲル部の遭難事故の現場としても知られており、今もヒグマの多いエリアであることに変わりはありません。
また、農業被害という観点も無視できません。ヒグマは牧草やデントコーンといった農作物を荒らすことがあり、酪農や畑作が盛んな北海道では、生活に直結する経済的な被害としても扱われています。人身被害だけでなく、農業被害の拡大も、ヒグマ問題を語るうえで欠かせない視点だと私は考えています。
エゾヒグマとツキノワグマ、何がどう違うのか
北海道に旅行や移住を考えている方の中には、本州のツキノワグマとの違いが気になる方も多いはずです。ここでしっかり比較しておきます。
北海道に生息するヒグマは、正式には「エゾヒグマ」と呼ばれます。ロシアのサハリンに生息するヒグマと同じ種類です。体格は本州のツキノワグマと比べて非常に大きく、オスの成獣であれば体重150キロから400キロ、大きい個体では500キロに達することもあります。体長は2.0メートルから2.3メートル、立ち上がると2.5メートルを超えることもあります。人間の身長をはるかに上回る大きさです。
一方、本州のツキノワグマは体重50キロから120キロほどです。単純に比較しても、エゾヒグマはツキノワグマの3倍から4倍ほどの体格を持っていることになります。全国の追跡データを見ると、出没件数全体のうち約9割がツキノワグマ、残り約1割がヒグマという内訳です。件数だけを見るとヒグマの割合は少なく見えますが、体格差や攻撃性を考えると、遭遇時の危険度は決して低くありません。
体格だけでなく、性質にも違いがあります。エゾヒグマはツキノワグマに比べて攻撃性が高いとされています。そのため、万が一遭遇してしまった際の対処法も、実は全く異なります。
一般的に、ツキノワグマに対しては、状況によっては死んだふりのような対応が語られることがあります。しかし、エゾヒグマに対して同じ対応をとることは非常に危険です。基本的には、ヒグマに対しては無防備な対応ではなく、まず遭遇そのものを避けることが最優先とされています。そして、もし近距離で遭遇してしまった場合は、刺激を与えずに、じりじりと後退することが推奨されています。この違いを知っているかどうかで、いざという時の行動が大きく変わってきます。
1915年に発生した三毛別羆事件は、日本の歴史上最悪とされるクマによる被害として、今も北海道の文化的な記憶に深く刻まれています。この事件が今なお語り継がれていること自体、エゾヒグマという存在の恐ろしさを物語っていると私は感じます。

エリア別に見るヒグマの危険度
北海道と一口に言っても、エリアによってヒグマの生息密度や出没傾向は大きく異なります。私が資料を整理した内容を、エリアごとにまとめます。
知床半島は、日本国内で最も生息密度が高いとされるエリアです。推定でおよそ500頭が生息しており、世界自然遺産としての豊かな自然が、そのままヒグマの生息環境になっています。観光で訪れる際は、必ずガイド付きのツアーを利用することが前提になります。
大雪山は、日本最大級の国立公園で、トレイル全域にヒグマが生息しています。登山を楽しむ方にとっては、避けて通れないエリアと言えます。
日高山脈は、大きな個体群を抱え、周辺の低地にまで行動範囲を広げている点が特徴です。歴史的な遭難事故の現場でもあり、今も注意が必要なエリアです。
道東の羅臼、標津、別海といった地域は、サケ漁の時期に活動が活発化します。季節性が強い点が特徴で、時期を意識した対策が求められます。
札幌市南区や西区、旭川郊外や神居古潭は、都市部と山の境界にあたるエリアです。生活圏のすぐそばにヒグマの生息域が広がっているという点で、他のエリアとは少し違った警戒が必要です。日常生活の延長線上にリスクがあると考えるべきです。
季節ごとのヒグマの活動パターン
ヒグマの危険度は、一年を通じて一定ではありません。季節によって行動パターンが大きく変わるため、時期ごとの特徴を知っておくことが実践的な対策につながります。
春は、冬眠から目覚めたヒグマが活発に動き出す時期です。冬眠明けは空腹の状態が続いており、餌を求めて行動範囲を広げる傾向があります。雪解けとともに山菜採りに出かける方も多い季節ですが、ヒグマにとっても同じ山菜が貴重な餌になります。人とヒグマの行動範囲が重なりやすい、注意すべき時期だと私は考えています。
夏は、繁殖期にあたります。この時期はオスの行動範囲が広がり、普段は見られないエリアにまで移動することがあります。また、子育て中の母グマは特に警戒心が強く、攻撃性も高まります。登山シーズンと重なるため、遭遇のリスクが年間を通じて最も高まる時期のひとつです。
秋は、冬眠に備えて大量に食べる時期です。ドングリやヤマブドウ、サケなど、栄養価の高い餌を求めて活発に動き回ります。この時期に餌となる木の実が不作だと、餌を求めて人里近くまで下りてくる個体が増えることが知られています。逆に豊作の年は、山の中で食料が確保できるため、人里での出没は落ち着く傾向があります。2025年度の捕獲数の減少も、この豊凶の影響が大きいと考えられています。
冬は、多くの個体が冬眠に入るため、遭遇のリスクは大きく下がります。ただし、すべてのヒグマが冬眠するわけではありません。栄養状態が悪い個体や、何らかの理由で冬眠しない個体も一定数存在するとされています。油断は禁物ですが、他の季節と比べれば警戒レベルを下げても問題ない時期だと言えます。
農業被害と地域経済への影響
ヒグマの問題は、人身被害だけにとどまりません。私が資料を読んでいて強く感じたのは、農業被害という側面の重さです。
北海道は日本有数の農業地帯であり、酪農や畑作が地域経済を支えています。ヒグマは牧草地に侵入したり、デントコーンやビートといった農作物を食い荒らしたりすることがあります。牛舎に侵入し、家畜に被害が及ぶケースも報告されています。こうした被害は、農家にとって収入に直結する深刻な問題です。
被害が発生した場合、自治体を通じて被害状況が報告され、地域個体群の管理計画にも反映される仕組みになっています。捕獲目標を設定する際にも、人身被害だけでなく農業被害の状況が考慮されています。つまり、ヒグマ対策は野生動物の保護管理であると同時に、地域の産業を守るための施策でもあるのです。
私は、こうした農業被害の実態を知ることも、ヒグマ問題を正しく理解するうえで欠かせない視点だと考えています。観光やレジャーの場面での注意ばかりが強調されがちですが、実際には農家の方々が日常的にこの問題と向き合っているという事実を、忘れてはいけないと思います。
ヒグマ対策グッズの選び方
実際に山に入る、あるいは郊外で生活するうえで、どんな装備を選べばいいのか。ここでは代表的な対策グッズを比較しながら紹介します。
熊撃退スプレーは、最も直接的な対策グッズです。唐辛子成分を高濃度で噴射し、ヒグマの粘膜を強く刺激することで、行動を止める効果が期待されています。ただし、航空機への持ち込みが制限されているため、本州から持参することはできません。北海道の登山口周辺でレンタルするか、現地の専門店で購入するのが基本です。使用する際は、風向きを考慮し、至近距離まで引きつけてから噴射することがポイントとされています。
熊鈴は、こちらの存在を先に知らせるための道具です。ヒグマは基本的に人を避ける動物なので、事前に気づいてもらうことで、偶発的な遭遇そのものを防ぐ効果が期待できます。スプレーが「遭遇後の対策」だとすれば、熊鈴は「遭遇前の予防」に近い役割を果たします。
ホイッスルも同様に、音で存在を知らせる道具です。沢の音が大きい場所や、見通しの悪いカーブでは、鈴の音がかき消されてしまうことがあります。そうした場面では、意識的に声を出したり、ホイッスルを吹いたりすることが有効です。
これらの道具は、どれか一つを選べばいいというものではありません。熊鈴で予防し、スプレーで万が一に備えるという二段構えが、私は現実的な組み合わせだと考えています。
ヒグマと遭遇しないために、私たちができること
ここからは、実際に私たちが取れる対策についてお伝えします。知識として知っているだけでなく、実践できることが大切です。
まず、登山やハイキングに行く前には、必ず最新の出没情報を確認してください。北海道庁や各市町村は、ヒグマの目撃情報をウェブサイトで随時公開しています。「ひぐまっぷ」のような専用のマップサービスも存在します。出発前にひと手間かけるだけで、リスクを大きく減らすことができます。
次に、熊撃退スプレーの携帯です。腰のホルスターに装着し、いつでもすぐに取り出せる状態にしておくことが重要です。カバンの奥にしまい込んでしまっては、いざという時に役に立ちません。
熊鈴も基本装備の一つです。常に音を出し続けることで、ヒグマに人間の存在を知らせることができます。ヒグマは基本的に人を避ける動物なので、こちらの存在に気づいてもらうことが最大の防御になります。
単独行動は避け、できるだけ複数人、理想を言えば3人以上のグループで行動することも大切です。見通しの悪いカーブや、沢を渡るような場所では、あえて大きな声を出すことも効果的です。
行動する時間帯にも注意が必要です。ヒグマは薄暗い時間帯に活発になる傾向があります。日の出後に出発し、日没前には行動を終えるという基本的なスケジュール管理を心がけてください。
キャンプ場での食料管理も、本州以上に厳しく行う必要があります。生ゴミやコンポストの管理を怠ると、ヒグマを人里に呼び寄せる原因になりかねません。ホテルやロッジに宿泊する場合でも、同様の意識を持つことが求められます。レンタカーを利用する場合は、車外に食べ物を放置しないことも忘れないでください。
日常生活の中でも対策は可能です。家庭ゴミの管理はその代表例です。生ゴミを収集日当日の朝に出す、コンポストにふたをするといった小さな習慣が、ヒグマを人里に近づけない効果につながります。庭先に果樹がある場合は、収穫し忘れた果実を放置しないことも大切です。こうした「餌付けしない生活」の積み重ねが、地域全体のリスクを下げていくのだと私は考えています。
もし実際にヒグマと出会ってしまったら
どれだけ対策をしていても、遭遇のリスクをゼロにすることはできません。もし出会ってしまった場合の基本を押さえておきます。
遠くにヒグマを見つけた場合は、まず落ち着いて、ヒグマに気づかれないようにその場を静かに離れてください。走って逃げることは絶対に避けるべきです。走ることで、ヒグマの追跡本能を刺激してしまう可能性があります。
近距離で遭遇してしまった場合は、目を合わせたまま、ゆっくりと後退することが基本です。背中を見せて走り出すことは、最も避けるべき行動です。荷物を落として気をそらすことが有効な場合もありますが、あくまで状況次第です。
子連れのヒグマに遭遇した場合は、特に注意が必要です。母グマは子を守るために非常に攻撃的になることがあります。子グマを見かけたら、近くに母グマがいる可能性を必ず考え、絶対に近づかないでください。かわいく見えても、それは命に関わる判断ミスにつながります。
知床でのクルーズやトレッキングに参加する場合は、必ずガイド付きのツアーを利用することをおすすめします。地元のガイドは、ヒグマの生態や現地の状況を熟知しています。個人での行動よりも、はるかに安全性が高まります。
北海道への移住や旅行は避けるべきか
ここまで読んで、北海道への移住や旅行に不安を感じた方もいるかもしれません。しかし、私は「避けるべき」とは考えていません。
毎年、数千人もの方が北海道の山や自然を安全に楽しんでいます。ヒグマが生息しているという事実は、登山や自然体験を避ける理由にはなりません。むしろ、正しい知識を持って準備をするための理由だと捉えるべきです。
移住を検討している方への具体的なアドバイスとしては、まず候補地の出没情報を事前に確認することです。ヒグマは1日に50キロメートル以上移動することもあると言われているため、過去の出没エリアはあくまで参考程度に考えてください。とはいえ、出没件数の少ないエリアを選ぶことで、日常生活における遭遇リスクを一定程度下げることは可能です。
札幌市のヒグマ出没情報など、自治体が発信する情報を定期的にチェックする習慣をつけることをおすすめします。移住先の自治体がどのような対策を講じているかを確認しておくことも、判断材料の一つになるはずです。地域によっては、ヒグマ対策の担当窓口や、住民向けの注意喚起の頻度にも差があります。移住前に、こうした行政の姿勢を確認しておくと安心です。
旅行であれば、知床や大雪山のような自然豊かなエリアを訪れる際は、必ずガイドツアーを利用し、単独での行動は避けてください。都市部に滞在するだけの旅行であれば、過度に恐れる必要はありません。ただし、郊外への足を延ばす予定がある場合は、事前に出没情報を確認しておくことをおすすめします。
最終的な判断は、リスクをゼロにすることではなく、リスクを正しく理解したうえで、許容できる範囲まで下げることだと私は考えています。北海道の自然の豊かさは、ヒグマという存在と切り離せません。その事実を受け入れたうえで、賢く付き合っていく姿勢が大切です。
行政の対策と今後の見通し
北海道庁は、人とヒグマとのあつれきを軽減しながら、地域の個体群を存続させることを目的として「北海道ヒグマ管理計画」を策定しています。現行の第2期計画は、令和6年12月に改定され、令和9年3月までを計画期間としています。
この改定計画では、すべての地域個体群において「あつれき低減措置」を実施することとされています。具体的な捕獲目標も定められており、2025年から2034年までの10年間で、総捕獲目標数はおよそ1万2540頭とされています。これは、現在の推定個体数に自然増加率をかけた数値を基準に設定されたものです。もし大量出没のような事態が発生した場合は、この暫定的な目標にとらわれず、柔軟に捕獲を実施する方針も示されています。
札幌市では「人里出没抑制等のための春期管理捕獲」という事業も実施されています。猟銃を持ったハンターが対象区域を踏査し、市街地への出没を未然に防ぐ取り組みです。こうした地道な対策が、今後どこまで個体数の増加に歯止めをかけられるか、私自身も注目しています。
一方で、根本的な課題として指摘されているのが、捕獲を担う人材の不足です。熟練したハンターの高齢化が進む中、次の世代をどう育成していくかが、今後の大きなテーマになると私は考えています。認定鳥獣捕獲等事業者や猟友会との協力体制を、地域の実情に応じてどう構築していくかも、今後の焦点になるはずです。
国も動いています。内閣官房が公表したロードマップでは、2030年度までに関係省庁が一体となって政策資源を総動員する方針が示されています。北海道だけでなく、東北や関東、中部といった本州の地域でも、それぞれの自然増加率をもとにした捕獲目標が設定されつつあります。クマ問題が、もはや一地域だけの課題ではなく、国全体で取り組むべきテーマになっていることの表れだと私は感じています。
観光業界への影響も見逃せない視点です。北海道は年間を通じて多くの観光客が訪れる地域であり、知床や大雪山のような自然観光は北海道の大きな魅力のひとつです。ヒグマの出没が増えることで、観光客が不安を感じ、自然観光そのものを避けてしまうことになれば、地域経済にとっても大きな損失です。だからこそ、ガイドツアーの充実や、正確な情報発信を通じて、観光と安全の両立を図る取り組みが今後ますます重要になると私は考えています。実際に、知床では地元ガイドによる案内が定着しており、安全に配慮しながら自然を楽しむ仕組みがすでに機能しています。こうした成功事例を、他のエリアにも広げていくことが、今後の課題のひとつだと感じています。
ヒグマに関するよくある誤解
ヒグマについては、正確ではない情報が広まっていることも少なくありません。私が資料を調べる中で気づいた、代表的な誤解をいくつか紹介します。
まず、「ヒグマは山の中にしかいない」という思い込みです。これはすでにお伝えした通り、現実とは異なります。札幌市や旭川市といった都市部の郊外にも出没しており、河川沿いのルートを使って市街地近くまで移動してくることが分かっています。都市に住んでいるから安心、とは言い切れなくなっています。
次に、「木に登れば逃げられる」という誤解です。ヒグマは木登りが得意な動物ではありませんが、決して木に登れないわけではありません。とっさの判断で木に登ることに賭けるのは、あまり現実的な対策とは言えません。基本はあくまで、遭遇そのものを避けることです。
「死んだふりをすれば助かる」という話も、よく耳にする誤解のひとつです。これは主に本州のツキノワグマに関する話が広まったものだと私は理解しています。エゾヒグマに対して死んだふりをすることは推奨されていません。無防備な状態を見せることが、かえって危険につながる可能性があるためです。
また、「ヒグマは臆病だから積極的に人を襲わない」という考え方も、半分正しく、半分誤解です。確かにヒグマは基本的に人を避ける動物です。しかし、警戒心の薄い個体が増えている今、この前提が必ずしも当てはまらないケースも出てきています。過去の常識だけに頼らず、最新の出没状況を確認する姿勢が大切だと私は考えています。
ヒグマとの共生に向けて、私たちにできること
ヒグマの問題は、行政だけが解決できるものではありません。地域に住む一人ひとりの行動が、結果に影響を与えます。
まず、正確な情報を得る習慣を持つことです。噂やSNSの断片的な情報だけに頼るのではなく、自治体が発信する一次情報を確認することが大切です。感情的な不安に流されず、データに基づいて判断する姿勢が、結果的に自分自身の安全につながります。
次に、地域の取り組みに関心を持つことです。捕獲従事者の高齢化という課題は、行政だけの問題ではなく、地域社会全体の課題でもあります。狩猟免許の取得を検討する若い世代が増えることも、長期的にはヒグマ問題の解決につながる要素のひとつだと私は考えています。
最後に、ヒグマを過度に恐れることも、過度に軽視することも避けるべきだと私は思います。北海道の豊かな自然の一部として、ヒグマという存在を正しく理解し、距離を保ちながら付き合っていく。それが、これからの北海道で暮らす、あるいは訪れる私たちに求められる姿勢ではないでしょうか。
よくある質問
北海道のヒグマは今、何頭くらいいますか?
北海道庁の資料によると、推定個体数はおよそ1万2000頭とされています。この数は年々増加傾向にあります。
ヒグマとツキノワグマ、遭遇したときの対応は同じでいいですか?
いいえ、異なります。エゾヒグマは体格が大きく攻撃性も高いため、ツキノワグマとは違った対応が必要です。基本は遭遇を避けること、そして近距離での遭遇時は刺激せずゆっくり後退することです。
札幌市内でもヒグマに注意する必要がありますか?
はい、必要です。札幌市南区や西区の郊外では、河川沿いに市街地へ進入する事例が報告されています。都市部だからといって油断はできません。
熊撃退スプレーは本州から持って行けますか?
持ち込みはできません。航空機への持ち込み制限があるため、北海道の登山口などで現地レンタルまたは購入するのが基本です。
なぜ2025年度は捕獲頭数が減ったのですか?
ドングリやヤマブドウなど、山の餌が豊作だったためです。餌が豊富だとヒグマが山から下りてこないため、結果的に人里での出没や捕獲の件数が減ります。個体数そのものが減ったわけではありません。
北海道への移住はヒグマのリスクを考えると避けたほうがいいですか?
私は必ずしも避けるべきとは考えていません。事前に出没情報を確認し、自治体の対策状況を把握しておけば、過度に恐れる必要はないというのが私の考えです。
ヒグマに一年で最も注意すべき季節はいつですか?
春と夏、そして餌が不作の年の秋です。春は冬眠明けで空腹の個体が活発に動き、夏は繁殖期でオスの行動範囲が広がります。秋は木の実が不作だと人里への出没が増える傾向があります。
子グマを見かけたらどうすればいいですか?
絶対に近づかないでください。近くに母グマがいる可能性が高く、母グマは子を守るために非常に攻撃的になります。見かけたら静かにその場を離れることが最優先です。
まとめ
北海道のヒグマは、確実に増加傾向にあります。推定個体数はおよそ1万2000頭、自然増加率は9.2パーセントとされ、捕獲を担う人材の減少や高齢化がその背景にあります。かつては山間部だけの問題だったヒグマの出没が、今では札幌や旭川といった都市部の郊外にまで広がっているのが実態です。
だからといって、北海道での生活や旅行を避ける必要はないと私は考えています。大切なのは、正しい知識を持ち、出没情報をこまめに確認し、装備を整え、遭遇のリスクを減らすための備えをしておくことです。北海道庁も捕獲目標を定め、着実に対策を進めています。私たち一人ひとりが正しい知識を持つことが、ヒグマとの不幸な遭遇を減らす第一歩になるはずです。

コメント